俺とお前の我儘
by 來花猪 八戒という男は、俺を甘やかす。
久しぶりについた街で羽根休めという理由で数日間の宿泊を決めた宿で八戒は誰にも有無を言わさずに俺と同室にさせた。
手早く荷物の整理や明日に買い出しをするつもりのリストを作る。それを見ながら煙草をふかしていた。俺の煙草もそろそろ補充してもらわないとこれが最後の一つだ。
「八戒、俺の煙草も」
「わかってますよ」
きっと一番に書かれているのだろう。何せ、この俺を溺愛しているんだと声を大にして言うくらいの男の事だから。
「さて、悟浄」
「なに?」
「髪の毛切ってもいいですか?もう、貴方の枝毛が気になって気になって」
「いいよー」
俺は別に気にしないのに八戒は俺の髪の事を気にして毛先をそろえるくらいだけれども切りたがるし、シャンプーやリンスーなんかをかなり気にして買う。そして一緒に入れるのならば一緒に入って俺の髪を洗う。俺からすればいたれりつくせりなんだけども、そこまでするか? というくらいにそこまでする。
さささ、っと八戒が用意したいつものセットに俺はされるがままになり、ショキショキと髪の毛に刃が入る。
「お風呂も一緒に入りましょうね?」
「うん」
この間は煙草が吸えなくて困る。楽しそうに八戒は鼻歌を歌いながら俺の髪を梳いていく。少し軽くなる。
八戒の愛し方が俺を甘えさせるところまで甘えさせることだとして俺の愛情とはなんだろうかと、そんな難しいことを考えながら風呂に入る。
俺の髪を洗い終えて満足そうにしている八戒に背を預けて浴槽につかる。俺の方がデカいはずなのにすっぽりと包むように八戒は俺の首筋に顔を埋めている。
ちょっと、煽られちゃっている俺だが聞きたいことがある。
「俺ってさー八戒をちゃんと愛せてんのかな?」
呟くように小さくそう発した声はよく反響する風呂場では拡大されて八戒の耳に届いたであろう。ただでさえ密着しているというのに。
ちょっとした間が空いて八戒がクスリと吹き出すように笑った。
「…んだよ」
「だって…おかしい…今更、なことを聞くんですもん…あーおかしい」
器用にも俺を後ろから抱きしめたまま体を震わせて笑う八戒に唇を尖らせた。そんなに笑うなっての。
「貴方が僕を愛してくれてるだのどうのこうのよりは、貴方はもうとっくに僕を懐に入れちゃってくれてるでしょう? 僕はそれだけで十分なんです」
「そんな覚えはないけど」
「例えば、髪の毛を洗うときに…」
するりと八戒の手が俺の首に絡む。ゆっくりと手に力が込められていき息が苦しくなっていく。
「こうやって絞殺してもいいんです。それに髪を切るときだってハサミで貴方の喉笛を潰すように突き刺してやればいい」
右耳に唇が寄せられて囁かれて身震いする。殺されかかっているはずなのに体に熱がたまって奥がうずく。まるでセックスをしているかのように頭の中が蕩けてきた。
「あぁ…ごめんなさい。離すのを忘れていましたね」
手が解かれて一気に空気を取り込んでしまい噎せた。
「ヒュッ、はっはぁ…あっ…んぅ…んっ」
必死に酸素を取り込もうとしたのに八戒にキスされて八戒に空気を与えられて、苦しくて涙が出た。何度も何度もそうやってキスされて八戒の唇から酸素を取り込む。ようやく離れた時には意識が朦朧としていた。
「貴方はさっき僕に抵抗なんていくらでもできたはずなのにしなかったでしょ? それだけ僕の事を許容してくれてるってことです」
「…んっ…分かった、から…」
八戒の言葉に頭がくらくらする。早くここから出て、もっと深く俺に触って欲しい。それこそ、頭ん中で何も考えられなくなるくらいに。
「上がりましょうね。このままだと逆上せちゃいますから」
「ん」
抱き上げて連れてってくれるのかと思ったのに八戒は先に出ちゃって俺に手を伸ばしてくる。そりゃ、一応は立てるけどさ、あんなことされた後だから力が入りにくいんだよ。
「八戒…このまま、ベッド行きたい」
「そうですね、ベッドでゆっくり寝ましょう?」
脱衣所で八戒に凭れきる。あんなことをしたのはお前だから、責任とれって話なんだけど、ってかベッドでいちゃつきたい。濃厚な時間が欲しい。何でそんなのも察してくれないんだろ。いつもはお前からがっついてくるくせに。
「八戒……」
「はい?」
振り返った八戒を壁に押し付けて乱暴に口づける。触れるだけじゃダメ。舌を絡ませて深いところまで俺を犯して。強引にねじ込んだ舌に八戒は順応して俺のに絡ませてきて俺が八戒を犯していたはずなのに俺が犯されて。
八戒の体にも火をつけるべく剥きだしのままの八戒自身を太ももで擦りあげてやる。
「…んっ…」
「はぁっ…ん」
間近すぎて焦点は合わないけども確かに欲情を目に宿した八戒がいて唇を解放してやる。
「はぁっ…はっ…なんですか」
「しよ? いっぱい、ちょうだい」
もう、無理だ。体に力が入らない。でも、八戒が欲しい。八戒にもたれ掛るように抱きしめる。
「…しょうがない人」
「はっ…はぁ…」
ズルズルとへたり込む前に八戒に抱き上げられて、きっとこのまま俺はベッドへと連れて行ってもらえるのだろう。
八戒が欲しくて欲しくてたまらないのはきっと俺の愛情であり、我儘なのだろう。
(溺れるほどの)