俺のものは俺のもの、お前の紅は俺の紅

by かめやま禅


 お互いを求め合った夜。
 想いを遂げた後の気怠い空気の中、一服をしようと辺りを見渡す。
 さっきまでの俺らを表わしているかのように折り重なる、脱ぎ捨てられた服たち。
「よっと・・・」
 煙草を取り出そうと、ベッドから身を乗り出して上にのった八戒の服を持ち上げると、そこからなにか紅いものがヒラヒラと床に落ちていった。
 気になり手に取って元のベッドに戻る。これは―――
「市場で昼間、高校生くらいの方たちが熱心に呼びかけしていたもので、つい。」
 背後から回された腕に取り上げられたのは、『赤い羽根募金』の『赤い羽根』だった。
「げ。お前これ一日中着けてたのかよ。」
「おや、さっきあれほど僕の服を凝視していたのにそんなこと言うんですか? よく見てください。シールの剥離紙ついたままですよ。」
「凝視って、ありゃ・・・」
 ―――ありゃ、お前のいつになく雄っぽい姿に見とれてただけだ―――なんて死んでも言いたくないから心の奥にしまっておくとして。
「着けちゃったら、なんだかもったいないじゃないですか。」
「そういうもんか?」
「そういうもんです。だって一度貼ったら捨てちゃうじゃないですか。」
 あいつが顎を俺の肩に乗っけてる所為で「じゃないですか」の部分が耳に直接吹き込まれたけど、断じて何にも感じちゃいないんだからな。その証拠に全く動揺しないで応答してやる。
「そりゃ仕方ねぇだろ。」
「いえ。紅いものは捨てたくないので。」
 紅いもの、か。
 俺とお前を現実につなぎとめた色。
 血の、色。
「なんか不思議な感じしません? 僕らが散々「罪の色」だの「戒め」だの言ってきた紅が、よりにもよってこんな平和的なものの象徴になるなんて。」
「・・・つまり八戒さんは何が言いたいわけよ?」
「いやぁ・・・ただ
『綺麗な赤ですね。』
 と。」
 そう言って再び後ろから伸びてきた腕は、俺の顎を掴んで、ゾッとするほど優しげなキスをくれたのだ。
 分かってねぇな、八戒。
 お前が何を考えてんだか知らないが、俺は感謝すらしてるんだぜ?
 お前が綺麗だと思うようなこの紅をくれた親や、居るかも分からないカミサマって奴らに、よ。
 そんな鈍感な八戒のために、俺は近くなったあいつの首を、両腕を回してさらに思い切り引き寄せてやった。
 それに応えるように、俺の紅に差し込まれたあいつの指の熱さが
 俺が手に入れた不格好な愛の証。



【END】